高松高等裁判所 昭和63年(ネ)36号 判決 1990年10月26日
控訴人
西村英将
右法定代理人親権者父
西村直記
同母
西村知惠
右訴訟代理人弁護士
草薙順一
同
薦田伸夫
被控訴人
松山市
右代表者市長
中村時雄
右訴訟代理人弁護士
木下常雄
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人に対し、二二五一万七三四八円及びこれに対する昭和五五年九月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人の、その一を控訴人の各負担とする。
三 この判決は主文第一項1について仮に執行することができる。
事実
一 当事者双方の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人は控訴人に対し、四九六七万一六二八円及び内金四五一七万一六二八円に対する昭和五五年九月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(四) 仮執行宣言
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
二 控訴人の請求原因
1 事故の発生
控訴人(昭和五一年三月一〇日生当時四才)は昭和五五年九月六日午後六時五分頃松山市堀之内所在の松山市民会館大ホール(以下「市民会館」という。)で開かれた南城美千世主催の南城バレエ研究所の発表会を観客席最前列で観覧していた際、防護柵の間隙を抜けてオーケストラピットに入り又は入ろうとしたところ、観客席とオーケストラピットとの間隙から地下室床面まで約4.5メートル転落し傷害を負った(以下「本件事故」という。)。
2 責任原因
本件事故のあった松山市民会館は被控訴人の営造物であり、被控訴人には、本件事故につき、次の設置及び管理の瑕疵があった。
(一)(1) 本件事故当時一階観客席と舞台との間のオーケストラピットがその観客席床面から約六五センチメートル下げた状態で公演され、その手前観客席側に防護柵(以下「防護柵」という。)があったが、その防護柵には観客席からオーケストラピットのある地下室床面に転落するのを防止しその安全性を確保するため通常備えるべき機能がなく、その設置に瑕疵があった。すなわち、防護柵は幅員約162.5センチメートル、高さ約七〇センチメートルの鉄製の枠にその大部分を被う形で薄い鋼鉄板が取り付けられており、その両端の脚を床面の穴に差し込む取り外し式でこれらを横に並べて設置されたものであるが、その一個の防護柵と次の防護柵との間隔が人が通り抜けられる程度開いており、防護柵のみにより通行を阻止する機能はなかった。
(2) オーケストラピットは地下一階床面から観客席床面まで4.5メートルをせり上げることができる舞台構造になっているが、本件事故当時オーケストラピットを観客席床面から約六五センチメートル下げた状態のとき、上下するオーケストラピットと観客席側の地階壁面との間に約七〇センチメートルの間隙があり、オーケストラピットから右間隙に転落することを防止する構造ないし設備がなかった。
(3) 右(1)、(2)の結果、防護柵を通り抜けた途端にオーケストラピットのある地下室床面まで転落する危険があるのに、これを防止する機能に欠けていた。
(二) 被控訴人には次の管理の瑕疵があった。
本件事故当時の公演は子供を主体としたバレー団の公演で入場者も子供が主であったから、被控訴人は前記防護柵の間隙から子供(幼児を含む。以下同じ。)がこれを通り抜け、観客用の椅子が並べられていた(当時音楽はテープによっており、オーケストラピットにはオーケストラ要員はもとより誰も入っていなかった。)オーケストラピットに入り込もうとすることが予測できたから、その防護柵の間隙を全部塞ぎ、又、オーケストラピットの地下室壁面側に転落防止のため十分な措置を採る等の管理をすべきであったところ、これをしていない。
(三)(1) 控訴人は本件事故当日前記のように一階観客席最前列の座っていた座席付近の防護柵の間隙を通り抜け、前記オーケストラピットの中に入ろうとして、又は、これに入った後、これと地階壁面との間隙をその地階床面まで約4.5メートル転落した。
(2) 控訴人の右転落は、被控訴人の前記設置及び管理の瑕疵に基づくものである。
3 損害
(一) 控訴人は本件事故により顔面裂創、左大腿骨下端粉砕骨折等の傷害を負い、本件事故当日から昭和五五年一二月二五日まで松山市民病院に入院、昭和五六年四月二七日まで通院して治療を受け、昭和五八年一一月一二日症状固定とされたが、その後両足の成長に著しい差を生じ現在では左大腿骨が右足のそれに比較して五センチメートル短くなり跛行を余儀なくされ、また、左下肢がO脚状になり左膝及び左大腿骨末梢部に変形が生じており、これらの後遺障害は労働者災害補償保険法の定める障害等級表七級(各八級及び一二級に該当し、これらが併合される。)に該当する。
(二) 控訴人の損害額
(1) 治療費 二三万四三六三円
(2) 入院雑費 六万六〇〇〇円
(3) 入院付添費 三三万円
(4) 逸失利益 三七五七万一二六五円
控訴人は本件事故当時満四才の男児で一八歳から六七歳まで就労可能で、前記後遺傷害による労働能力喪失率を五六パーセント、昭和五七年度賃金センサスによる産業計全労働者の平均賃金年間三七九万五二〇〇円を基礎として新ホフマン方式による中間利息を控除後の残額は三七五七万一二六五円となる。
(3,795,200×17.678×0.56=37,571,265)
(5) 慰謝料 六九七万円
入通院分七〇万円、後遺症分六二七万円
(6) 弁護士費用 四五〇万円
4 よって、控訴人は被控訴人に対し、国家賠償法二条一項による損害賠償請求権に基づき四九六七万一六二八円及び右金員から弁護士費用を控除した内金四五一七万一六二八円に対する不法行為後の昭和五五年九月七日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 控訴人の請求原因に対する被控訴人の認否、抗弁
1(一) 請求原因1の事実中、控訴人主張の日時場所で、控訴人が本件事故を起したことは認めるが、その余の事実は争う。
(二) 控訴人は防護柵の穴に手、足を掛けてよじ昇りオーケストラピット内に降り又は落下した後に、更に落とし穴状部分に落下したものである。
2 同2の事実中、被控訴人が市民会館を設置管理していることは認める。その余の事実は争う。すなわち、
(一) 本件では、以下述べるとおり市民会館施設に国家賠償法二条一項の設置管理の瑕疵はなかった。
(1) 同(一)(1)の事実(防護柵の瑕疵)は争う。防護柵の構造は概ね控訴人主張のとおりである。市民会館は多目的使用に耐えるよう設計されており、オーケストラピット部分を床面と同一の高さとして他の観客席と同様に観客席として使用し、又は、観客席をすべて取り除いて使用することもあり、その高さも観客席から舞台を見るのに支障のない高さに止めなければならないもので、防護柵をこれ以上の構造にすることは多目的使用を阻害することになる。防護柵と防護柵の間隔は約一〇センチメートルであり、幼児でもこれを通り抜けることは絶対不可能である。
(2) 同(2)の事実(落とし穴状部分による瑕疵)は争う。その構造については概ね認める。観客席床面がオーケストラピットの端と一致する部分まで出ており、その床端から七〇センチメートル以上離れた観客側に地下室壁面がありそこが落とし穴状部分となっているので、その位置関係からみて、防護柵を乗り越えても直ちに右落とし穴状部分に転落することはない。
(二) 本件事故当時防護柵に立入禁止の札を張り、防護柵を超えないように場内放送をしたほか、防護柵と防護柵との間を全部塞がなくてもその通り抜けができない上、被控訴人係員は本件事故当時オーケストラピットの最後部に客席用の椅子(二個又は三個が一体となり容易に移動できる。)の背を観客席床面に接して間隙のないように並べ、その内側に更にもう一列椅子を間隙なく並べており、落とし穴状部分に転落しないように管理していた。
3 同3の事実は知らない。
4 控訴人の親権者で控訴人に同行していた母知恵(以下「知恵」という。)は本件事故当時まだ四歳の控訴人が防護柵を乗り越え又は通り抜けオーケストラピットに近づく行動をしないよう監視し監督すべきところ、これを怠った過失があるので、その損害額の算定につきこれを考慮すべきである。
四 被控訴人の抗弁に対する控訴人の答弁
過失相殺の主張は争う。
五 証拠関係<省略>
理由
一本件事故の発生と責任原因
1 控訴人(昭和五一年三月一〇日生当時四才)が昭和五五年九月六日午後六時五分頃被控訴人の営造管理物である市民会館で開かれた児童バレエの発表会を観覧していた際、防護柵とオーケストラピットの間隙から地下一階の床面に転落して受傷したこと(本件事故の発生)は当事者間に争いがない。
2 <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 知恵は控訴人と姉花子(昭和四九年五月四日生)を連れ午後六時五分ころ本件ホールに入場したが、既に演技は始まっており舞台照明のために本件オーケストラピット部分を含め観客席内部は薄暗かった。知恵は観客席が満席に近く三人並んで座れる場所が見付からなかったために、控訴人を舞台近くに行かせ自分は花子と共に前から一二列目舞台に向かって左から3ないし5番のいずれかに花子が掛け知恵はその後方通路に立って観覧し、控訴人は最前列(四列目)28から30番のいずれかに座席を取り、演技を見ていた。控訴人は、その後間もなく知恵のもとに来て「靴をなくした。」と告げたが、知恵は控訴人一人で容易に探せるものと思い又身重で行動が思うに任せかなったので、「自分で探しなさい。」といったので、控訴人は、再び前記場所に戻った後、防護柵を越えオーケストラピット内に降りようとし又は降りたところ、後記の落とし穴状に落ち込み、約4.5メートル下の地下室床面まで転落した。
(二) 知恵は稍経っても控訴人が帰って来ないので、その様子を見るため控訴人の座席付近に行ったところ、控訴人が座席に居らず、控訴人の泣き声がオーケストラピットの方向から聞こえたため異常に気付き、自らも防護柵の間隙を抜けてオーケストラピット内に降り又は降りようといているうちに控訴人同様に落とし穴状部分に転落し、知恵も又、第一腰椎圧迫骨折等の傷害を負った。
二設置管理の瑕疵
1 <証拠>を総合すると次の事実が認められる。
(一)(1) 本件事故当時一階観客席と舞台との間にはせり上がりのオーケストラピットがその観客席床面より約六五センチメートル下げた状態で公演され、その手前観客席側に防護柵があったが、その防護柵の構造は次のとおりであった。防護柵としては幅員約162.5センチメートル、高さ約七〇センチメートル(客席の椅子の高さと同程度)の鋼鉄製の枠に、その大部分を被うように薄い圧縮合板(握り拳大の穴が沢山あいている。)が取り付けられた板状のものを別に用意し、その両端の脚を床面の穴に差し込んで立てる取り外し方式にしたもので、それらが横に並べて設置され、その防護柵と次の防護柵との間隔は約一〇センチメートル(大きな穴に差し込みその横をバネで止めてあるので若干の緩みがある。)であった。しかし、その間から四才程度の児童が通り抜けられ、大人では、殆ど下半身だけで通り抜けられる程度のもの(知恵は何らの抵抗もなく通り抜けている。)であった(なお、防護柵の若干の個所に立入禁止の張り紙がしてあったが、もとより幼児に対する効果はない。)。
(2) オーケストラピットは地下一階床面近くの観客席方向の壁面より76.5センチメートルを隔てた部分から独立の床面となっており、その床面が一階客席床面と同一になる高さまで約4.5メートルせり上げることができ、これを下げた場合、客席床面の柵のある部分は地下室壁面から約76.5センチメートル突き出た状態になる。本件事故当時オーケストラピットを観客席床面から約六五センチメートル下げた状態で使用していたため、突き出た観客席床面の下側の面に沿い地下室壁面まで76.5センチメートルが間隙となり、それが空洞の落とし穴(その断面は高さ4.5メートル、幅員76.5センチメートルの長方形で、その長さは観客席前方の舞台側前面にわたる。)のような状態となり、右落とし穴状の部分の横の空中にオーケストラピットが宙吊りになっていた(その下部も空間となっていた。)又、オーケストラピットの地下室壁面側には、右落とし穴状部分との間を遮るものはなく、そこから転落することを防止するための設備は全くなかった(本件事故後にその転落防止のため観客席床面の端線から下に向かい地下室床面まで、オーケストラピットに接して、全面に、金網が張られた。)。
(3) 右(1)、(2)の構造上、人が防護柵の間隙を通り抜けて、オーケストラピットの方向に足を踏み入れた場合、体がオーケストラピットに止まらずに落とし穴状部分に落ち込み、4.5メートル下の地下室床面まで転落する可能性が大である。
(二)(1) 被控訴人は本件事故当時前記防護柵を立て、右落とし穴状部分への防止のため、オーケストラピットの一部に前記落とし穴状部分の手前でオーケストラピットの中に、観客席床面の端にほぼ接して、観客席の椅子(二個又は三個ずつが一体となったもので、四才の児童でも容易に動かすことができる。)を二列に並べたが、それが何ら並べてなかった部分もあり、又、その椅子と椅子との間にある程度の間隙がある場所もあった(右並べた観客席の椅子もオーケストラピット内にあるものを寄せて使用したため、すべてを間隙なく並べるには数が足りなかった。)。しかし、その椅子の最後尾部分は、なおオーケストラピット内にあったため、オーケストラピット内からの転落防止には効果があっても、ことに右のように椅子が並べられていなかった間隙、椅子と椅子との間隙に向かって、観客席から防護柵を超えてオーケストラピット内に入り又は入ろうとした場合には、落とし穴状部分への転落を防止する効果は期待できなかった。
(2) 本件事故当日バレーのための音楽は全てテープで流しており、オーケストラピットにはオーケストラの要員はもとより、誰もおらず、主催者側からの申し入れで、舞台の側に顔見知りの子供が寄って来ると踊りに身が入らなくなるのでそれを遠ざけることを主目的としてオーケストラピットを下げたものである。
以上のとおり認められ、<証拠>中各一部右認定に反する部分はにわかに信用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。
2 右認定事実により検討する。
(一) 一個の防護柵と他の防護柵との設置関係は四才であった控訴人がこれを通り抜けることのできる間隔であり、その防護柵では通り抜けを阻止する十分な機能を有していなかったものである(なお、右間隙は大人であっても下半身を用いて容易に通り抜けられるものである。)。更に、本件事故当時午後六時過ぎで照明の暗い場内で、オーケストラピットを床面より六五センチメートル下げ、子供を含み多数の公衆のために公演する会場で、オーケストラピット及び落とし穴状部分に転落することを防止する施設としては、右認定の防護柵は安全な機能を有せず、設置の瑕疵があるものである。
(二) オーケストラピットと観客席側の地下室壁面との間の落とし穴状部分はその構造上転落防止に必要な施設自体の構造部分を欠いている点で、設置の瑕疵があることは明らかである(被控訴人はこの点につき、観客席の床面が地下室壁面よりオーケストラピット側に出ているので防護柵を越えてもオーケストラピットに落下するだけで地下室床面までは落下しないというが、防護柵を越えて落下する場合常にオーケストラピット内に落下するとは限らず、そのまま落とし穴状部分に転落することもあるし、一旦オーケストラピット内に落下してもそこから更に落とし穴状部分に転落することもあり、いずれにしても地下室床面まで落下する可能性が大きく、その防止のために被控訴人が椅子を並べたものであるから、この点の被控訴人主張は理由がない。)。
(三) 被控訴人はオーケストラピットを下げて使用すべき必要性が乏しいのにこれを下げて使用した上、地下室壁面側に椅子を観客席床面にほぼ接して並べたけれども、それを全く間隙のない程度に並べたわけではなく、それを並べなかった部分や、椅子と椅子との間の間隙があった部分がある上、その椅子は子供でも十分動かすことのできる程度の重さで、その防止効果は極めて不十分で不確実なものであったから、その管理に瑕疵があったものといわざるをえない。
(四) 以上の設置及び管理の瑕疵が重なって、本件事故が発生したものということができ、被控訴人は国家賠償法二条により、控訴人の被った損害を賠償する義務を負う。
三損害
1 <証拠>を総合すると次の事実が認められる。
控訴人は本件事故により顔面裂創、左大腿骨下端粉砕骨折等の傷害を負い、同日から同年一二月二五日まで(一一一日間)松山市民病院に入院し、退院後昭和五六年四月二七日まで通院治療を受け、昭和五八年一一月一二日症状固定とされた。しかし、左大腿骨末端粉砕骨折による末梢骨端線の異常により左大腿骨に短縮傷害が残り、昭和五九年一二月三日時点で左右大腿骨の差は五センチメートルで、その程度は労働者災害補償保険法後遺障害等級表第八級五号(一下肢を五センチメートル以上短縮したもの)に該当し、また、左大腿骨には変形障害が残りその程度は右表第一二級八号(長管骨に奇形を残すもの)に該当し、結局これらが併合される結果控訴人の後遺障害の程度は少なくとも右等級表の併合等級第七級に該当する。
2 損害額
(一) 治療費等
<証拠>によると、治療費として二三万四三六三円を要し、入院中はその祖母福本やよ子、同西村富喜子が付き添ったことが認められ、入院雑費として一日六〇〇円の控訴人主張のとおりの一一〇日分の六万六〇〇〇円が、入院付添費としては一日三〇〇〇円の合計一一一日分の三三万円が相当であり、これらの合計は六三万〇三六三円となる。
(二) 慰謝料
前記各認定説示を総合考慮すると、控訴人の入通院の慰謝料は一五〇万円、後遺障害に対する慰謝料は六〇〇万円が相当である。
(三) 逸失利益
控訴人は本件事故当時満四才(昭和五一年三月一〇日生)で、少なくとも一八歳から六七歳まで働くことができ、その間に賃金センサス昭和五五年度産業計企業規模計男子労働者学歴計年額三四〇万八八〇〇円の収入を得られるものと考えられ、前記後遺障害(七級)により五六パーセントの労働能力を喪失したので、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除した現在額は、次のとおり一七五一万六三二三円とする。
(3,408,800×0.56×9.176=17,516,323)
(四) 過失相殺
前記各認定事実によると、立入禁止とされた防護柵を越えてオーケストラピット内に控訴人が立入る場合には何らかの危険な事態が発生することは予見できたというべきであり、控訴人が靴をなくしたことを告げにきた時点で、知恵は控訴人のその後の行動を監視し、防護柵を越え本件オーケストラピット内に立入らないよう監督すべきであったのにこれを怠った過失があり、本件事故発生についてはこの控訴人側の過失も寄与していること明らかでその過失割合は二〇パーセントとみるのが相当であるから、前記(一)ないし(三)の合計額二五六四万六六八六円より二〇パーセントを減額し過失相殺をすると二〇五一万七三四八円となる。
(五) 弁護士費用
前記各説示によると、被控訴人の負担すべき弁護士費用は二〇〇万円とするのが相当である。
四以上のとおりであるから、被控訴人は控訴人に対し国家賠償法二条一項による損害賠償として、二二五一万七三四八円及びこれに対する不法行為以後である昭和五五年九月七日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。控訴人らの本訴請求は右の限度で理由がありその余は理由がないので棄却すべきところ、これと異なる原判決は相当ではないからこれを変更し、右説示のとおり一部を認容し一部を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条、仮執行宣言につき同法一九六条の規定に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙木積夫 裁判官孕石孟則 裁判官高橋文仲)